中小企業にお勤めの方には、自分が退職する際に退職金がもらえるのかどうか気になったことがある方もいると思います。
本コラムでは、大企業と比べて福利厚生が整っていない中小企業でも、負担の少ない状態で退職金制度を確立するために生まれた退職金共済についてお伝えします。
このページで分かること
1. 退職金共済とは
退職金共済とは、従業員の在職中に企業が掛金を外部に積み立て、従業員が退職する際に請求された内容に基づき、従業員に対して直接退職金が支払われる制度です。
退職金共済は、企業外で掛け金を計画的に積み立てることで、従業員の退職時に経営が悪化している企業であっても、従業員に対して退職金を支払う事ができます。
退職金共済の中でももっともポピュラーな「中小企業退職金共済制度(中退共)」には、2021年3月末時点でおよそ55万社が加入しています。お勤め先の企業が退職金共済に加入しているかどうか知りたい場合は、人事部に問い合わせたり、就業規則を見たりすることで確認する事ができます。
ここからは、退職金共済の代表格である中退共について、詳しく解説していきます。
2. 中退共の加入要件
2.1 企業要件
中退共に加入できる中小企業の範囲は、以下の表の通りです。
一般業種(製造・建設業等) | 従業員300人以下または資本金3億円以下 |
卸売業 | 従業員100人以下または資本金1億円以下 |
サービス業 | 従業員100人以下または資本金5,000万円以下 |
小売業 | 従業員50人以下または資本金5,000万円以下 |
なお、従業員の増加等により中小企業でなくなった場合は、一定の条件を満たしていれば他の企業年金制度等に引き継ぐことが可能です。
2.2 従業員要件
中退共の加入対象者は、原則として従業員全員を加入させる必要があります。ただし、定年などで短期間内に退職することが明らかな従業員や、休職中の従業員、期間を定めて雇われている従業員などについては、加入させる義務はありません。
また、個人事業主および法人企業の役員は加入することができません。ただし、法人企業の役員で常時使用人としての職務に従事しており、従業員として賃金の支給を受けているなどの実態があれば加入することができます。なお、事業主と生計を一にする同居の親族については、従業員である実態があれば加入することができます。
3. 中退共の掛金額
掛金は、全額を事業主(企業)が負担し、従業員が拠出することはできません。
月々の掛金は5,000~30,000円の範囲(1,000円単位)で16種類あり、事業主が従業員ごとに設定します。また、週30時間未満の短時間労働者(パートタイマーなど)の場合は、上述の16種類に加えて、2,000~4,000円の範囲からも設定することが可能です。
掛金の増額については、基本的にはいつでも変更することができますが、減額については従業員の同意が必要などの条件を満たす必要があります。
3.1 支給金額は「基本退職金+付加退職金」
中退共の退職金の金額は、基本退職金と付加退職金の合計で決まります。
基本退職金とは、掛金月額と納付年数によって応じて法令で定められた固定金額のことで、現状は制度全体として予定運用利回りを1%としています。
付加退職金は、運用利回りが予定運用利回りを上回った場合に上積みされるもので、具体的には掛金納付月額の43ヶ月目とその後12ヶ月毎の基本退職金相当額に、厚生労働大臣が定めるその年度の支給率を乗じた額を退職時まで合計した額となります。
3.2 掛金納付月額と退職金の支給額
中退共制度は、長期加入者ほど有利になるよう設定されており、
・掛金納付月数が12ヶ月未満→退職金は支給されない。
・掛金納付月数が12ヶ月以上24ヶ月未満→退職金は掛金相当額を下回る額。
・掛金納付月数が24ヶ月以上43ヶ月未満→退職金は掛金相当額。
・掛金納付月数が43ヶ月以上→退職金は掛金相当額を上回る額。
上記のように掛金納付月額によって退職金の支給額が異なるため、入社して間もないタイミングで退職を考えている方は注意が必要です。
4. 制度間のポータビリティ
制度間のポータビリティとは、老後資産の確保に向けた継続的な資産形成を補助することを目的として、制度加入者が転職などした際に、加入者毎の年金資産を移管し、加入者期間等を通算することを言います。
従業員が中退共のある企業を退職して、3年以内に転職先で再び中退共の被共済者となった場合、退職した企業での掛金納付実績をそのまま新しい企業で通算することができます。
また、転職先に中退共以外の退職金制度(確定給付企業年金や確定拠出年金制度)がある場合にも、一定の条件下で移管・通算が可能です。
5. 退職金共済の種類
退職金共済には、ここまで説明してきた「中小企業退職共済制度(中退共)」のほかにも、「小規模企業共済」や「特定退職金共済制度」と呼ばれる制度があるので、それぞれの制度の違いについて簡単に説明していきます。
5.1 小規模企業共済
小規模企業共済は、小規模企業の経営者や役員、個人事業主が廃業や退職に備える共済制度で、運営は独立行政法人「中小企業基盤整備機構」が行っています。
加入要件は、常時使用する従業員が20人(商業・サービス業では5人)以下の個人事業主と企業役員、各種組合の役員等となります。
毎月の掛金は、1,000円から70,000円までの範囲(500円単位)で自由に選択することができます。
受け取る共済金については、共済金を受け取ることになった理由に応じて共済金A、共済金Bなど呼称が異なり、一括受け取りと分割受け取りを併用することも可能です。
また、制度加入後12ヶ月以上の掛金を納付しているなどの要件を満たしていれば、納付した掛金の範囲内かつ担保・保証人なしで契約者貸付を受けることができ、事業資金等に活用することができます。
なお、小規模企業共済と中退共の重複加入はできません。
5.2 特定退職金共済制度(特退共)
特退共とは、商工会議所・商工会・社団法人・財団法人などが、保険会社等に運営を委託している退職金制度です。
特退共は実施主体によって企業の所在地の地域に条件がある場合がある一方で、基本的に中退共と違って加入する企業について従業員数や資本金・出資金などによる制限はなく、中小企業でなくても加入することができます。
特退共でも従業員は原則として全員加入する必要があり、加入させる義務がない範囲、加入できない範囲も基本的には中退共と同様の範囲となっています。
毎月の掛金は、1,000円から30,000円までの範囲(1,000円単位)で事業主が従業員ごとに設定します。
中退共では加入期間が12ヶ月未満だと原則として退職金が支給されませんが、特退共では支給されるため、従業員にとっては加入期間が短くても退職金を受け取ることができるというメリットがあります。
なお、特退共と中退共は重複加入が可能です。
6. まとめ
ここまで説明してきたように、退職金共済制度は基本的に従業員側が掛金の負担や責任を負うものではなく、勤務先企業より大きい母体が主となって制度を運営しているため、安心して退職金を受け取ることができます。
ただし、退職金の支給額や受け取り方は企業や個人それぞれで大きく異なるため、お勤め先の企業がどの退職金制度を採用しているのか、自分の退職時にどの程度の退職金をもらえるのかなど、しっかり把握して退職に備えましょう。